大林宣彦監督の「尾道三部作」でたどる映画の街尾道の魅力

大林宣彦監督といえば、その出世作は「尾道三部作」と呼ばれる、「転校生」「時をかける少女」そして「さびしんぼう」ということで異論をはさむ人はいないでしょう。

どこかファンタジックで、そして主人公の女の子の物悲しさが、見るほうにもストレートに伝わってくる青春映画です。

これらが封切られたのは1982年から1985年頃ですが、いま見てもなお色あせない、青春期特有のみずみずしさを見事に描いた作品です。

また、これらの作品で主演を務めた小林聡美、原田知世、富田靖子にとっても、どこか不思議な時を描くファンタジー映画で鍛えられたことは、女優としての成長にもつながったに違いありません。現在でもそれぞれが女優として、独特の魅力を放っているのがその証拠でしょう。

一方で、これらの映画の成功のもう一つの主役として挙げられるのが、坂の街、尾道の魅力であることも論を待たないでしょう。

どこか懐かしい風景で、尾道水道を見下ろせる風光明媚な景色。不便だけど、古き良き時代の昭和の空気の流れる場所がロケ地だからこそ、みんな一度その舞台を訪ねてみたいと、いまでも大林作品のロケ地を見たいと尾道を訪れる人は後を絶ちません。

尾道水道を臨む港町、尾道は海運の要衝として、古くから栄えてきました。その証拠に海の無事を祈るための寺が、尾道には多くあります。

そして明治時代には海沿いを山陽本線が通るようになり、ただでさえ山がちな尾道の海沿いのエリアにすむひとは、立ち退きを余儀なくされました。

このあたりで商売をやっていた人、海運業の人、そんな人たちはできるだけ港の近くにすみたいと、山肌に家を建てていきました。気が付くと、狭い路地をはさんで、びっしりと海に近い山側のエリアはの家が立ち並ぶ独特の景色が生まれていたのです。坂の街尾道が誕生したのはそんな理由からでした。

そして、その独特の景色を生かそうと、地元尾道で大林監督はロケを敢行します。地元出身の青年のCM監督から映画界への転身を、尾道の人々はロケ地の提供だったり、ボランティアとしてエキストラで出演したり、と全面的にサポートします。

のちに、尾道が「映画の街」と呼ばれ、1990年代以降数多くの映画で、この街を舞台に映画が撮られるようになったきっかけも、「尾道三部作」でした。当時、サポートしたお店や人々は、あの時代の活気を懐かしく語ってくれたりします。

たとえば、千光寺公園のロープウェイのふもとにある「茶房こもん」。当時はまだめずらしかった、カリカリのベルギーワッフルを出す喫茶店ですが、映画「転校生」で小林聡美が母親役の入江若葉と立ち寄るシーンで協力しました。

ここでワッフルを食べれば、映画の世界にじっくりひたることができます。また、「さびしんぼう」に出てきた山の手にある西願寺なども、境内やそのたたずまい、はるか眼下に見下ろす尾道水道と対岸の向島の景色など、映画のロケ地をたどることで、尾道の魅力を再発見することもできるのです。

大林監督のように「自分の地元で映画を撮る」というのは、誰にでもできることではありませんが、自分の地元を大事に思い、その景色の価値をみんなに知ってほしい、という気持ちは共感できます。

インターネットでさまざまな画像も家に居ながらにして検索できる今の世の中だからこそ、映画で出てきたシーンと、目の当たりにした景色とのシンクロ具合など、それを実際に目の当たりにしたら、どう感じるかはその場に行ってみないとわかりません。

自分の感性を磨きに、不便な坂の上まで息を切らして自ら上り、潮風にあたりながら美しい瀬戸内海を眺めに、一度尾道に足を運んでみませんか?

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