観たら南極に行きたくなった!?止めておきなさい。「南極料理人」の魅力

本作は、南極観測隊員の炊事担当として海上保安庁から派遣された西村淳氏の「面白南極料理人」を原作とした2009年の映画であり、2019年にはテレビドラマ化もされています。

原作と映画を通じてまず感じるのは、こんな何にもない極限の環境では人間一人ひとりの本質が丸裸にされ、限りなく馬鹿になれますし、必然その欲求も食ひとつに収束するという事です。
つまり、ある意味西村隊員は一行で一番偉い存在といえるのです。

日本映画らしいといえばらしいですが、全篇通してセリフはあまり多くありません。
食事のシーンも気の利いたコメントやわざとらしいリアクション一切なし。

「料理とは、喉元を過ぎるまではほぼ精神の領域である」
とは有名な料理界の言葉です。
やはり食は命をダイレクトにつなぐものなんですね。
そこに言葉は必要ないんです。

食事シーンだけでなくとにかく全篇がシュールな沈黙の笑いであり、その行間にほとばしる各人の思いを考察というか妄想するのがいちいち楽しく、映画というより舞台を見ている感覚です。

原作でも「別に辛い思いをするのが目的で南極に行くんじゃない」と語られている通り、過酷な作業と楽しいイベント&宴会が裏表のように交互に行われながら、1年余りの南極ライフが何となく、しかし力強く過ぎていくわけです。

映画なんだから、最後に大きな事件を皆で乗り越えて…などというあざといアレンジはせず、演出は最低限の人間模様と、思わずほろっと涙を誘ういくつかの場面にとどめ、極力原作に寄せたありのままを描いているように思えます。
よって起承転結に期待する向きには、若干消化不良に感じるかもしれません。
サボる者とそれに激怒する者、バター中毒になる者、遠距離恋愛が上手くいかない者など、小さなハプニングに見舞われながらも、ハッピーでもバッドでもない、おっさんが業務を終えて一安心するような普通のエンディングを迎えるのでした。

特に終盤の、「南極で手打ちラーメンが食べたい」という無茶を叶える西村マジックは必見!

南極ではどうやら、「オーロラよりラーメン」のようです。

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